2017年1月15日日曜日

【解説】#2 Rihanna feat. Jay-Z - Umbrella


"Umbrella"はバルバドス出身のシンガーRihannaの2007年の通算3作目となるスタジオ・アルバム"Good Girl Gone Bad"からのリードシングル曲。Jay-Zが客演で参加しており、Tricky StewartとKuk Harrellがプロデュースを担当、The-Dreamがさらに共作者として名を連ねています。

この曲は元々はBritney Spearsのために書かれた楽曲でしたが、ブリトニーのレーベル側がレコーディングを拒否したそう。ジャンル的には、HIP-HOPやロックの要素を取り入れたポップ・R&Bソングで、ロマンチックな純愛、そうした結びつきの強さについて歌っている楽曲。

2008年のグラミー賞では、Jay-ZとともにBest Rap/Sung Collaboration部門を受賞した他、Record of the YearとSong of the Yearにもノミネートされています。

この曲は商業的な成功をおさめ、オーストラリア、カナダ、ドイツ、スペイン、アイルランド、スウェーデン、スイス、イギリス、アメリカといった国々のチャートで首位を獲得しました。特にイギリスでは10週連続で1位を獲得し、2000年代において最もエアプレイ回数が多かった曲の1曲にもなっています。またイギリスではこの曲が首位を獲得していた時期と、豪雨による大洪水に見舞われた時期が重なっていたため、大きな話題を呼びました。全米チャートでも7週連続1位を記録しました。






・曲が完成した経緯

2007年1月、ソングライター・プロデューサーのChristopher "Tricky" Stewartは新曲制作のために、Terius "The-Dream" NashとKuk Harrellをアトランタのトライアングル・スタジオに招集します。Tricky Stewartは、Macコンピューターに搭載されている無料音楽ソフトウェアのGarageBandで発見した「打ち付けるようなハイハットの音を使って遊んで」いました。このサウンドに彼が注目していると、The-DreamはStewartに、「なんだこれ、このビートは一体何だよ?」と尋ねたそう。そしてStewartがこのハイハットの音にコードを合体させると、「突然、ある言葉が(The-Dreamの)頭の中に思い浮かんだ」のだそう。そして彼はボーカル・ブースに入り、歌い始めたのだとか。The-Dreamは、Tricky Stewartのトラックの骨組みから初めの2つのヴァ―スとコーラスを書き、彼らはすぐにリリックの制作に取り掛かったのですが、60秒で初めのヴァ―スは完成したそう。さらに彼らは曲を書き進め、「(Stewartが)次のコードを付け加える」ことで、フックを足したそう。約数時間の間に、彼らはデモ・トラックのレコーディングも完了させました。

この曲はBritney Spearsに提供することを念頭に置いて書かれた曲でした。Tricky Stewartは以前にも2003年のBritneyのシングル曲"Me Against the Music"を作曲していました。当時のBritneyに関して「彼女の私生活が少し常軌を逸していた」ため、彼女の音楽界へのカムバックのためにはヒット曲が必要だろうと、StewartとThe-Dreamは考えていたのです。実際Britney Spearsは通算5作目となるアルバム"Blackout"の制作に取り掛かっていたので、音源をBritney Spearsのマネージメントに送ったのですが、レコーディングすべき曲はもう十分あるとレーベルが却下したため、彼女がこの曲を聴くことはなかったそう。

このような経緯があり、2人は他のレーベルにも曲の提供を持ち掛けます。イギリスの歌手Taio Cruzの手にも回ったのですが、Taio Cruzは自身のレコード会社にこの曲をリリースするように説得できなかったそうです。その後、Def Jamの会長でStewartの友人でもある、L.A. Reidがこの曲を手に入れることになります。2007年の2月に、この曲のデモがL.A. Reidの右腕であるA&RエグゼクティヴのKaren Kwakの手に渡り、リアーナにぴったりの曲を見つけたというメッセージとともに、L.A. Reidの元にも届けられたそう。Rihannaもちょうどそのときは、通算3作目のスタジオ・アルバム"Good Girl Gone Bad"の制作に取り掛かっている最中でした。即座にL.A. ReidはRihannaに曲を送り、彼女自身もポジティヴな反応を示していました。「デモを始めて再生したとき、この曲興味深いわ、奇妙ねって思ったの。だけど、この曲はどんどん良くなっていくの。何度も何度も繰り返し聴いたわ。私は、『この曲が必要よ。明日にでもレコーディングしたい』って言ったの」

しかし、2007年のグラミー・シーズンだったため、StewartとThe-DreamはMary J. Bligeにもデモを送っていました。Rihannaのためにこの曲を取っておくように電話しようとしたところ、すでにStewartはMary J. Bligeの仲間の一人にこの曲を聞かせており、すぐに彼女に曲を提供することを約束してしまいました。そのことを聞きつけたDef JamのエグゼクティヴのKwakはStewartと彼のマネージャーのMark Stewartにひっきりなしに電話しました。一方で、Mary J. Bligeがグラミー賞にノミネートされたのを考慮して、StewartとThe-Dreamは彼女の反応を待っていました。しかし、Mary J. Bligeは、その時グラミー賞への義務があり、フルでこの曲を聴くことはなく、「代理人が承認できるようにサインをしなければならなかった」のでした。

最終的には、L.A. Reidが「介入し、彼の影の支配者的な地位と、長年にわたるStewartとの関係を利用した」そうで、「私が、プロデューサー達が断れないように要求をした」ことをL.A. Reid自身も認めています。L.A. Reidは見事にStewart陣営を説得することに成功したわけですが、彼らは「ノーと言えなかっただけ」らしいです。この曲をL.A. Reid陣営に譲ることにしたことについて、Mark Stewartは次のようにコメントしています。「あと数か月でRihannaのアルバムがリリースされるだろうってことはわかってたからね。Maryはまだアルバムを制作するサイクルには入ってなかったし。僕たちは賢明なビジネス上の決断をしたのさ」

Rihannaは、Thaddis "Kuk" Harrellのボーカル・プロダクションの元、レコーディングを行います。当初Stewartは、Rihannaが本当にこの曲をレコーディングすべきアーティストなのかどうか疑っていたことを認めています。しかし、"ella, ella"のキャッチ・フレーズをレコーディングした時に、「何か」が宿ったと感じたそう。


・歌詞和訳

[Intro: Jay Z]
No clouds in my stones
Let it rain, I hydroplane in the bank
Coming down with the Dow Jones
When the clouds come, we gone
We Roc-A-Fella
We fly higher than weather
And G5's are better
You know me
In anticipation for precipitation
Stack chips for the rainy day
Jay—Rain Man is back
With little Ms. Sunshine
Rihanna, where you at?

俺の宝石には一点のくもりもない
雨よ降れ、俺は銀行という水面を進む
ダウ・ジョーンズが下がろうと
曇り空になれば俺たちは去る
俺たちはロッカフェラ
曇り空より高く飛んでいる
G5がもっと最高だ
俺のこと知ってるだろ
降雨量を見越して
雨の日には金を貯える
ジェイことレインマンが戻ってきた
リトル・ミス・サンシャインと一緒に
リアーナ、君はどこだ?

[Verse 1: Rihanna]
You have my heart
And we'll never be worlds apart
May be in magazines
But you'll still be my star
Baby, ‘cause in the dark
You can't see shiny cars
And that's when you need me there
With you I'll always share
Because

私のハートはあなたのもの
私たちは決して離れ離れになったりしない
雑誌の中の存在だとしても
これから先もあなたは私のスター
ベイビー、だって闇の中では
輝く車も見えない
そんな時には私が必要
あなたとなら私はいつだって分かり合えるわ
だって

[Chorus: Rihanna]
When the sun shine, we shine together
Told you I'll be here forever
Said I'll always be your friend
Took an oath, I'mma stick it out to the end
Now that it's raining more than ever
Know that we'll still have each other
You can stand under my umbrella
You can stand under my umbrella
(Ella, ella, eh, eh, eh)
Under my umbrella
(Ella, ella, eh, eh, eh)

太陽が輝けば私たちも輝く
言ったでしょ、私はずっとここにいる
いつもあなたの味方でいる
最後までやり遂げるって誓ったわ
経験したことのないほどの雨が降り注いでいるけど
私たちにはお互いがいるってわかっている
私の傘に入っていいのよ
あなたは私の傘に入れるの
私の傘の下に

[Verse 2: Rihanna]
These fancy things
Will never come in between
You're part of my entity
Here for infinity
When the war has took its part
When the world has dealt its cards
If the hand is hard
Together we'll mend your heart
Because

どんな高級品も
2人を引き離したりはしない
あなたは私が存在する理由
永遠に消えることはない
戦争が起ころうと
世界がカードを配って
その手札が厳しくても
2人一緒にあなたの心を癒すわ
だって

[Chorus: Rihanna]
When the sun shine, we shine together
Told you I'll be here forever
Said I'll always be your friend
Took an oath, I'mma stick it out to the end
Now that it's raining more than ever
Know that we'll still have each other
You can stand under my umbrella
You can stand under my umbrella
(Ella, ella, eh, eh, eh)
Under my umbrella
(Ella, ella, eh, eh, eh)

太陽が輝けば私たちも輝く
言ったでしょ、私はずっとここにいる
いつもあなたの味方でいる
最後までやり遂げるって誓ったわ
経験したことのないほどの雨が降り注いでいるけど
私たちにはお互いがいるってわかっている
私の傘に入っていいのよ
あなたは私の傘に入れるの
私の傘の下に

[Bridge: Rihanna]
You can run into my arms
It's okay; don't be alarmed
Come into me
There's no distance in between our love
So go on and let the rain pour
I'll be all you need and more
Because

私の胸の中に飛び込んでもいいのよ
大丈夫。心配しないで
私の内側に入ってきて
私たちの愛に距離など問題じゃない
さぁ、雨よ降り続けて
私があなたに必要なすべてになるわ。それ以上にも
だって

[Chorus: Rihanna]
When the sun shine, we shine together
Told you I'll be here forever
Said I'll always be your friend
Took an oath, I'mma stick it out to the end
Now that it's raining more than ever
Know that we'll still have each other
You can stand under my umbrella
You can stand under my umbrella
(Ella, ella, eh, eh, eh)
Under my umbrella
(Ella, ella, eh, eh, eh)

太陽が輝けば私たちも輝く
言ったでしょ、私はずっとここにいる
いつもあなたの味方でいる
最後までやり遂げるって誓ったわ
経験したことのないほどの雨が降り注いでいるけど
私たちにはお互いがいるってわかっている
私の傘に入っていいのよ
あなたは私の傘に入れるの
私の傘の下に

[Outro: Rihanna]
It's rainin', rainin'
Ooh, baby, it's rainin', rainin'
Baby, come here to me
Come into me
It's rainin', rainin'
Ooh, baby, it's rainin', rainin'
You can always come into me
Come into me
It's pourin' rain
It's pourin' rain
Come here to me
Come into me ...

雨は降り続く
ベイビー、雨が降っているわ
ベイビー、私の元に来て
私の内側に入って
雨は降り続いている
ベイビー、雨が降っているわ
いつだって内側に入ってきていいのよ
私の中に
土砂降りの雨でも
強い雨が降り注ごうと
私の元へ
私の中へ


・偉業

各誌2000年代ベスト・ソングにも軒並みランクインしています。


『Rolling Stone』誌

2007年のベスト・ソング100で3位。

2000年代のベスト・ソング100で23位。

2007's song of the summer was more power ballad than R&B song, thanks to its rocking live-drums beat. It had the whole world singing along with Rihanna and her umbrella-ella-ella — and made the careers of The-Dream and Tricky Stewart.
「2007年のソング・オブ・ザ・サマーはR&Bソングというより、ロックしているドラムのビートによって、パワー・バラードのような趣がある。世界中がリアーナとともに彼女の"umbrella-ella-ella"を一緒に歌った。そしてこの曲はThe-DreamとTricky Stewartの出世作ともなった」

2010年に発表した『オールタイム・グレイテスト・ソング500』で412位。


「NME」

2007年のベスト・ソングで5位。

2000年代のベスト・ソングで16位。

There are many puzzling things about this song, which was originally written for Britney Spears but rejected by her label. First, how is it that such a daft, stuttered lyric (“Umbrella-ella-ella“) can sound so serious and epic? And second, how is Rihanna able to sing in such a cold and impassive voice, yet make the song sound so weirdly moving? The slick production makes it superficially an R&B track, but the chorus is so toweringly great it transcends genre boundaries. Perhaps that’s why it’s been covered by everyone from My Chemical Romance to Manic Street Preachers.
「元々はブリトニー・スピアーズのために書かれたが、彼女のレーベルに拒否されたこの曲には、多くの不可解な点がある。まずどうして、こんなにまぬけで、しどろもどろなリリック("Umbrella-ella-ella")がこんなに厳粛で崇高に聞こえるのだろうか?そして2つ目、どうしてリアーナはこんなに冷淡で無機質な歌声で歌えて、それなのに本当に異様なくらいに心が動かされるのだろうか?洗練されたプロダクションは、一見R&Bトラックのようにも思えるが、コーラスが非常に素晴らしく、ジャンルの境界を越えてしまっている。たぶんそれこそが、マイ・ケミカル・ロマンスからマニック・ストリート・プリーチャーズに至るまで様々なアーティストにこの曲がカバーされてきた理由だろう」


「Pitchfork」

2007年のベスト・トラック100で5位。

2000年代のトップ・トラック500で25位。

In pop's armory of emotions, fidelity is among the trickiest to get right. Too easily its expression tips into the reassuring sentimentality of "That's What Friends Are For". This only makes "Umbrella" more startling and precious: In this particular field the song is possibly without peer. The secret was to capture fidelity's difficulty, its challenge, and Rihanna's method is pleasingly literal, pitting her pledge of devotion against nature itself: synthesizer chords like a rainstorm and breakbeats like thunder claps or trees crashing to the ground. In the midst of it all, Rihanna herself sounds hard and defiant, abandoning her former girlish sweetness for a steely determination; hence the near-violence of her "um-be-rella-ella-ella," as impacting and stirring as a war cry. It's not sensual, but, "Said I'll always be your friend/ Took an oath, I'm a stick it out till the end," remains one of modern pop's most romantic and affecting promises.

「ポップ・ミュージックにおける感情の兵器工場において、忠実性こそが、正しくやるのに最も難しいことのうちの1つである。その表現は簡単すぎるくらいにDionne Warwickの"That's What Friends Are For"における強い感傷に昇華されている(?)。ただ忠実性こそが、"Umbrella"をより衝撃的かつ尊いものにしているのだ。この忠実性のフィールドにおいては、この曲はもしかすると無比の存在であるかもしれない。秘訣は、忠実であることの難しさを捉えて挑んでいることだ。リアーナのやりかたは面白いくらいに一語一句忠実で、嵐のようなシンセのコードと雷鳴か木々が倒れて地面を叩きつけたかのようなブレイクビーツという、自然の法則に対する忠誠の誓いには抗っているのだ。この曲全体においては、リアーナその人がハードで反抗的に思えるが、その冷酷なまでの決意によって以前までのガーリーでスウィートな彼女のイメージをかなぐり捨てている。それ故に、"um-be-rella-ella-ella"における暴力にも近い響きは、雄叫びのように印象的で心が奮い立つ。官能的ではないが、"Said I'll always be your friend/ Took an oath, I'm a stick it out till the end,"というリリックは、現代のポップミュージックにおいて最もロマンチックで感動的な約束の1つであり続けている」


『Slant』誌

2000年代のベスト・シングル100で5位。

Rihanna's characteristically dispassionate delivery and syllabic lollygagging both linger at the end of the tongue, and the coattails of this monster hit's reign poured like nothing else this side of “My Humps” Even if none of its descendents managed to harness enough energy to power so much as the original's high-hat, the dozens of acoustic, pop, rock, country, punk, geek, and twee covers that sprang up in its wake can attest, “Um-buh-rella” was the decade's foremost throwback to the notion of pop standards. Which, you have to admit, iTunes needed then more than ever.

「リアーナの特徴である感情を押し殺した表現とのらりくらりとした音節はどちらも、舌の先まで残っている。そしてこのモンスターヒット曲の君臨によって今でも残る威光は、"My Humps"サイドの曲の中でも唯一無事のものであり、激しい雨を降らせている。たとえ、この曲からの影響を受けた楽曲が、"Umbrella"におけるハイハットと同じくらいのパワーを持つエネルギーを生み出そうとも、この曲のリリース後生み出されてきたアコースティック、ポップ、ロック、カントリー、パンク、ギーク、そして風変わりなカバーの数々が証明しているように、"Um-buh-rella"は00年代においてポップ・スタンダードの概念を真っ先に思い出させるものとなった。そして、認めなければならないのは、この時からiTunesがこれまで以上に必要とされるようになったのだ」

「VH1」
2000年代のグレイテスト・ソング100で11位。





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