2016年12月22日木曜日

Kamyu Kamyu's Songs Of The Year 2016 10→1


10位 Savages - Adore



怒れる女性4人組バンドだったサヴェージズが、人生を祝福し、大きな「愛」を歌う。優美かつ神聖でありながら、ラストに向けての盛り上がりはまるで地鳴りのようでもある。
ジェニーから発せられる言葉は単純かつ明快だ。「明日になったら死ぬかもしれない。だから言う必要がある。私は人生を崇拝する、と」
ポスト・パンクとも称されるソリッドで洗練された攻撃的なロックが象徴的だった彼女たちにとって、音楽的にもこの曲は新たな挑戦であっただろう。静寂を突き刺す不協和音的なノイズが立ち込める中、彼女のボーカルは非常にエモーショナルであり、サヴェージズ流のソウル・ミュージックともいえるかもしれない。


9位 A Tribe Called Quest - We the People...


<US最高位77位>
激動の2016年、様々なアーティストがポリティカルなテーマの楽曲をリリースしてきたが、米大統領選でアメリカ社会が大きく揺れる中、この曲はリリースされた。
黒人、メキシコ移民、貧困、ムスリム、同性愛に関する社会問題に言及し、アメリカが掲げる理想と現実の格差を皮肉るサビが痛快である。一方で、「勝者」「被害者」といった二項対立の枠に当てはめようとするメディアへの批判的な姿勢も読み取れ、Q・ティップはヒラリーを支持しながらも、彼女の黒人コミュニティーに対する貢献への疑問や不信感も露にしている。
そんな現代社会を大きなテーマとして取り扱いながらも、Black Sabbathの"Behind the Wall of Sleep"のドラムスをサンプリングした、この立体的かつ鋭角的なサウンドが異次元のカッコよさへと誘ってくれる。最高にクールだ。


8位 Tegan And Sara - Boyfriend



プロデューサーにGreg Kurstinを迎え、甘いインディー・ダンスポップへ転向したカナダ出身の双子デュオは、この曲で自身のセクシュアル・アイデンティティーをさらに突き詰めている。
見かけ上はかなりキャッチーで、フックのシンガロングっぷりも爽快な綿あめのような空気感の曲だが、その中でサラの実体験に基づいたシリアスなジェンダー意識の提起を行っている。
メインストリームやポップス界においても、多様な性をテーマに打ち出した楽曲が多くリリースされた2016年であったが、この曲はその中でも最高峰に位置する楽曲であった。


7位 Frank Ocean - Ivy

<US最高位80位>
フランク・オーシャンの書くラブ・ソングは、性別やセクシュアリティーを超えて人々の胸に訴えかけてくる。というか何か特別な感情をもたらしてくれる。
若き日の失恋を淡々と歌い上げる彼は、過去の関係は価値あるものだったと回想する。「君が愛してるっていてくれた時、夢を見ているようだった」と歌う彼は幼き日に戻ることはできないし、もう大人になりすぎてしまったことも自覚している。
自問自答してるかのような彼のボーカルは、元Vampire WeekendのRostamがプロデュースを手掛けた、このロックとソウルを折衷させたような夢見心地なトラックの上に浮遊しているかのようだ。
そして、ラストのファルセットの叫びに、彼の癒えることのない心の痛みを見ることになる。


6位 Rae Sremmurd feat. Gucci Mane - Black Beatles


<US最高位1位、UK最高位2位>
Mike Will Made Itが全面バックアップをする規格外の若手2人組の、キャッチーすぎるミラクルHIP-HOPチューンは、予想外の旋風を巻き起こし、彼らのキャリアを圧倒する大ヒット曲となった。
「マネキンチャレンジ」は確かにこの曲のヒットに貢献しただろうが、その前からこの曲のクオリティーの高さはすでに話題だったし、確実にバズっていたのだから、これを話題性一発のヒットソングと呼ぶのはあまりに軽薄すぎる主張だろう。
Mike Will Made Itプロデュース曲の中でも1,2を争うキラートラックといっても過言ではない。というか、彼らをラッパーじゃないと見下していた頭でっかちなHIP-HOPファンを、派手派手しいファーコートを身に纏ったセンス抜群のファッション、唯一無事のハイトーンラップで完全に打ち負かして見せているのだ。


5位 Adele - When We Were Young


<US最高位14位、UK最高位9位>
幼い頃は「早く大人になりたい」と思っていても、次第に大人になることを恐れ始める時期が来る。
過去の思い出は美しく思えるもので、映画のようだったと思うし、作曲もできないのに歌にしたいと思う。本当に色褪せない思い出は写真ではなく、それぞれの人の心の中にいつまでも残り続けているものである。
逆に自分が年を取って、これまでの人生を振り返ってみたときに、果たして自分は人を愛し、いろんなことを経験し、それを「美しかった」と思える日は来るのだろうか、とも思う。
そんな人生の狭間に生き続ける人々の普遍的な感情を、彼女は70年代風のエモーショナルなバラードにのせて、そして往年の熱唱ディーヴァのDNAを受け継ぎ、圧倒的な歌唱力で歌い上げている。
一つ間違えると、ノスタルジックに浸るだけのしょうもないポップ・バラードになる危険性を孕んだこのテーマ性を、フォークな味わいが持ち味のインディー系の新人Tobias Jesso Jr.と、プロデューサーのAriel Rechtshaidが盤石のプロダクションで支え、記憶に残る名曲へと昇華させた。


4位 Blood Orange - Augustine



一定のリズムを奏でるドラム・マシーン、エモーショナルなギター、美しいピアノの旋律に、ブラッド・オレンジことDev Hynesの時にマッチョな、時に女性的な歌声が交錯する。
彼が築き上げてきた、インディーR&Bとネオ・ソウルが絶妙にブレンドされた奥深いサウンドの世界観、そしてCarly Rae JepsenやTinashe、Solangeといったアーティストへの提供曲で証明してきた抜群のメロディーセンスが、この曲では最高の形で結実しているのだ。
さらに、21歳でロンドンからロスに移った自身の生い立ちを、移民としてロンドンで生活を始めた自身の両親の生い立ちと重ね合わせ、自身へのルーツをたどる探求を始めている。ただどこか包み込まれるような優しさが楽曲全体に漲っており、彼は世界のあらゆるものに関して大きな愛情を抱いているのではないかと思わせる魅力を持っている。


3位 Solange - Cranes In The Sky


<US最高位74位>
ジャンルレス化が進む現代において、R&Bの素晴らしさと醍醐味を再認識させてくれる曲だ。
「ビヨンセの実妹」である彼女のキャリアはメインストリームからもっと離れたインディーで個性的な音楽性から始まった。2012年、Blood OrangeことDev Hynesが手掛けた"Losing You"はインディー系の批評家から絶賛され、彼女の音楽性自体も大きな注目を集めるようになった中、今年急遽新作のリリース、そしてこの曲のシングルカットが告知された。
ロックとの急接近を図ったビヨンセとは全く異なるアプローチで、彼女は逆に"R&B"そのものへのこだわりを私たちに見せてくれた。Raphael Saadiqとの共作であり、8年前から原型が存在していたというこの曲は、繊細でオーガニックでありながら温かみのあるエモーショナルな楽曲になっている。崇高かつ深遠で美しく、最後のファルセットなんて天に舞うようであるが、それも彼女ならではの表現力といったところだ。


2位 Fifth Harmony feat. Ty Dolla $ign - Work from Home


<US最高位4位、UK最高位2位>
2016年を代表するヒット曲であり、そのどんなヒット曲よりも2016年らしさを体現した曲である。
今や絶滅危惧種ともなっているティーンから絶大な支持を受ける女性アイドルグループであるからこそ、彼女たちはデビュー作でもほかのアイドルとは一線を画す高品質のR&B風ポップをヒットチャートに送り込んできたし、その姿勢がさらなる名曲を誕生させる運命となった。
彼女たちは偽りのアイドルを演じたりもしなければ、メンバー同士の仲良しごっこだって見せたりしない。そして、メンバーのノーマニはSNS上で過剰な黒人差別に敢然と立ち向かい、ローレンは自身の人種的ルーツやセクシュアリティーに誇りを持つ声明を発表した。
そんな彼女たちの毅然とした態度と野心的ともいえる欲求が、この曲の持つセクシーでエッジが効き、それでいてダイナミックな世界観とも見事にマッチしている。もちろん不遇の名曲"Drop That Kitty"をさらに洗練させたともいえるこの曲で、Ty Dolla $ignは完璧な客演仕事を披露している。


1位 Beyonce - Formation


<US最高位10位、UK最高位31位>
2013年に自身の名前を冠した傑作をリリースしたビヨンセが、その「ビヨンセ」を超えた瞬間である。
Queen Bことビヨンセは、ヒューストンが生んだスーパースターであり、アフリカンとクレオールの混血であり、独立し力強い女性の味方であるし、今ではHIP-HOP界の帝王の妻であり、最愛の娘アイヴィーちゃんを育てる一児の母親である。
初ダッグとなるMike Will Made Itがプロデュースを手掛けた最新鋭のR&B/HIP-HOPトラック上で、ビヨンセはそんな自身のルーツに立ち返りつつ、完璧なボーカルを披露している。
彼女がスーパーボウルの舞台でこの曲をパフォーマンスすれば、ヘイター達は「政治を持ち込むな」と叩き、一方でレッドロブスターの売り上げに貢献する。彼女の影響力はいまや絶大なものである。だって彼女は"Slay"だから。
「ポップスター」としての威厳は失うことなく、彼女はメインストリームに黒人女性への大きなインスピレーションを与えることに成功した。2016年、あの"Crazy In Love"をも凌駕するであろう歴史に名を刻む新たな彼女の代表曲が誕生した。





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